腱板損傷の痛みと特徴を知ろう
腱板損傷(けんばんそんしょう)は、肩関節の周りにある筋肉や腱の一部が損傷する状態を指します。肩関節は非常に柔軟で広い可動域を持つため、その周囲の筋肉や腱に大きな負担がかかりやすいです。腱板(ローテーターカフ)は、肩関節を安定させる4つの主要な筋肉(棘上筋、棘下筋、小円筋、肩甲下筋)とそれに付随する腱で構成されています。これらの腱が損傷すると、肩の動きに制限が生じ、痛みが発生します。
腱板損傷の主な症状
1. 肩の痛み
- 最も一般的な症状で、肩の前面や側面に痛みを感じます。特に腕を上げたり、後ろに回すときに痛みが強くなります。
- 夜間の痛みが特徴的で、特に横になって寝ているときや、患側を下にして寝ると痛みが増し、睡眠に影響することもあります。
- 初期には軽い痛みでも、損傷が進行すると激痛になることがあります。
2. 肩の動きの制限
- 腕を上げる、後ろに回すなどの日常動作がスムーズにできなくなることがあります。特に、上に手を挙げる動作(例えば棚から物を取る、シャツを着る)に困難を感じます。
- 腕を完全に上げられなくなったり、特定の角度で引っかかるような感覚が生じることもあります。
3. 筋力の低下
- 腕を上げたり、物を持ち上げる際の筋力が低下します。重いものを持つのが難しくなるだけでなく、軽いものでも腕が上がらない感覚があります。
- 特に肩の外旋や外転(腕を横に挙げる動作)の際に力が入らないことが顕著です。
4. 肩の不安定感
- 肩が不安定に感じることがあり、腕を動かした際に「肩が抜けそうな感じ」や「しっかり固定されていない感覚」があることもあります。
5. クリック音や摩擦音
- 腕を動かすときに肩から「クリック音」や「バリバリ」という音がすることがあります。これは、腱板が摩耗している場合や、腱が滑らかに動かなくなっているためです。
6. 腕の可動範囲の減少
- 腕を特定の方向に動かせる範囲が狭くなることがあります。特に、肩を回す動きや腕を真横に持ち上げる動作が制限されやすいです。
7. 症状の進行
- 最初は軽い痛みや不快感から始まり、徐々に症状が悪化していくことが多いです。適切な治療を受けない場合、慢性的な痛みや肩の機能障害を引き起こすことがあります。
腱板損傷の原因
腱板損傷の原因は、主に外傷性のものと加齢や長期の使い過ぎによるものに分けられます。以下に主な原因を説明します。
1. 加齢による変性
- 年齢とともに腱が弱くなることが大きな要因です。腱板の腱は、30代以降から少しずつ弱くなり始め、特に50歳以上になると損傷のリスクが高まります。
- 腱の組織が老化し、血流が減少するため、腱がもろくなりやすく、損傷が起こりやすくなります。
2. 繰り返しの使いすぎ(オーバーユース)
- 肩の腱を長期にわたり繰り返し使うことで、腱板に負担がかかり損傷を引き起こすことがあります。
- スポーツや仕事で肩を頻繁に使う動作が原因になりやすく、特に肩を多用するスポーツ(野球、テニス、バレーボール、水泳など)の選手や、日常的に重いものを持ち上げる労働者に多く見られます。
3. 外傷(事故や転倒)
- 急激な衝撃や負荷も腱板損傷の原因になります。例えば、転んで手をついたときや、肩に強い力がかかったときに腱板が損傷することがあります。
- 交通事故や転倒など、外からの直接的な力で肩に強いダメージが加わると、一度に腱が破れたり断裂したりすることがあります。
4. 肩の解剖学的要因
- 肩の構造に問題があると、腱板に圧迫や摩擦が生じやすくなり、損傷のリスクが高まります。例えば、肩甲骨の構造上、腱板が周囲の骨に擦れるような状態になると、腱が摩耗しやすくなります。
- 肩の使い方に問題がある人や、姿勢が悪い場合にも、腱板に余計な負担がかかりやすくなります。
5. 血流の不足
- 腱板は肩関節の深部にあり、加齢や使いすぎによって腱への血流が減少します。血流が不足すると、組織の修復力が低下し、損傷が治りにくくなります。
- この状態が続くと、腱が少しずつ劣化し、最終的に損傷が発生します。
6. 喫煙や生活習慣
- 喫煙や不健康な生活習慣も、腱板損傷のリスクを高めます。喫煙は腱や筋肉の血流を悪化させ、組織の回復を妨げます。また、栄養不足や運動不足も、腱の健康に悪影響を与える可能性があります。
7. 遺伝的要因
- 家族に腱板損傷の経験がある場合、その人自身も遺伝的に腱板が弱い可能性があります。遺伝的な影響で、腱の強度や修復能力が低下していることがあるため、特に加齢や過度な肩の使用に注意が必要です。
8. 姿勢不良
- 不良姿勢が原因で肩に負担がかかることもあります。例えば、前かがみの姿勢や猫背で過ごすことが多いと、肩の前側にストレスがかかり、腱板が圧迫されやすくなります。
腱板損傷のリハビリと治療法
1. 保存療法
軽度から中程度の腱板損傷や加齢による損傷が対象です。手術を避けたい場合や、腱の部分断裂の場合にも行われます。
a. 休息と肩の安静
- 肩を休めることが基本です。痛みが出ている状態では無理に動かさず、肩に負担をかける動作を避けます。
- 必要に応じて、三角巾や肩用のサポーターを使い、肩を固定することもあります。
b. アイシング
- 炎症や腫れを抑えるために冷やすことが有効です。痛みが強い場合や運動後は、氷嚢や冷湿布を使い、1回20分程度のアイシングを行います。
c. 薬物療法
- 痛みや炎症を抑えるために、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が処方されることがあります。これにより、痛みを和らげ、リハビリを進めやすくなります。
- 慢性的な痛みがある場合、ステロイド注射を肩関節内に行うこともありますが、これは短期的な痛みの緩和を目的としています。
d. 物理療法(温熱療法、超音波療法)
- 温熱療法や超音波療法は、血流を改善し、組織の修復を促進します。これにより、痛みが和らぎ、回復が早まることが期待されます。
2. リハビリテーション
腱板損傷の回復を促進するためには、適切なリハビリが重要です。リハビリは、損傷の程度に応じて段階的に行われます。
a. ストレッチ
- 肩の可動域を維持・改善するために、肩のストレッチ運動が行われます。無理のない範囲で肩を動かし、関節が硬くならないようにします。
- 例として、壁に向かって指を滑らせる「ウォールクライミング」や、タオルを使った肩のストレッチがあります。
b. 筋力強化運動
- 腱板や肩周囲の筋肉を強化するための筋力トレーニングが行われます。軽い負荷から始め、徐々に負荷を増やしていきます。
- 特に、肩甲骨や肩の安定性を向上させるエクササイズが重要です。ゴムバンドや軽いダンベルを使ったトレーニングがよく行われます。
c. 肩甲骨の安定性の向上
- 肩甲骨の動きを改善し、肩関節の安定性を保つためのエクササイズも行われます。肩甲骨の安定性が向上することで、肩の負担が軽減されます。
3. 手術
保存療法が効果を示さない場合や、腱板が完全に断裂している場合には、手術が検討されます。
a. 腱板修復術
- 腱板を縫い合わせて修復する手術です。関節鏡を使用する関節鏡視下手術が一般的で、体への負担が少なく、回復も早いです。
- 腱が断裂している場合、腱を骨に再固定することで肩の機能を回復させます。
b. 肩関節の一部切除
- 骨の形状が腱板に摩擦を与えている場合、骨の一部を削り取る手術(肩峰形成術)が行われることがあります。
c. 肩関節置換術
- 重度の損傷や肩関節全体が変形している場合、人工関節を置換する手術が選択されることもあります。
4. 術後リハビリテーション
- 手術後は、長期間のリハビリが必要です。通常、手術後の初期段階では肩を固定し、その後徐々に可動域訓練と筋力強化に移行します。
- 3〜6か月程度のリハビリ期間が一般的で、完全な回復にはさらに時間がかかることもあります。
5. 日常生活での予防とケア
- 肩に無理な負担をかけないことや、適切なストレッチと筋力トレーニングを継続して行うことが、腱板損傷の予防につながります。
- 特に、長時間にわたって肩を使う作業やスポーツの前後には、ウォームアップやクールダウンをしっかり行うことが重要です。
腱板損傷の痛みの種類
1. 動作時の鋭い痛み
- 腕を上げたり、後ろに回すような動作をしたときに、肩の前面や側面に鋭い痛みが生じます。この痛みは、損傷した腱板が負担を受ける動きに伴って発生します。
- 例として、洗濯物を干す、物を棚に置く、ドアを閉めるといった日常の動作で痛みが強くなることがあります。
2. 鈍い持続的な痛み
- 肩に鈍く重い痛みが続くことがあります。これは、腱板の損傷や炎症によるもので、動いていない時でも持続することが多いです。
- 特に、夜間や安静時にこの痛みが顕著で、夜間に痛みで目が覚めたり、仰向けや肩を下にして寝ると痛みが増すことが一般的です。この「夜間痛」は腱板損傷の特徴的な症状です。
3. 運動後の痛み
- スポーツや仕事などで肩を使用した後に、肩の周囲に痛みが出ることがあります。運動中は痛みを感じなくても、運動後に腱板に負担がかかった結果、後から痛みが強くなることがあります。
4. 局所的な鋭痛
- 腱板の特定の部分が損傷している場合、肩の前面や側面に触れた時に局所的な鋭い痛みを感じることがあります。これは、腱やその周辺の炎症によるものです。
5. 肩の引っかかり感と痛み
- 腕を特定の角度で動かしたとき、肩が「引っかかる」ような感覚があり、その際に一時的な鋭い痛みが走ることがあります。これは、腱が摩耗したり、骨との間で挟まれたりすることで生じます。
- 腱板が炎症を起こしている場合や、肩峰(肩の骨の一部)と腱板が擦れることによって起こります。
6. 負荷時の痛みの悪化
- 物を持ち上げたり押し上げるような動作で、痛みが増すことがあります。特に、肩の上方向へ手を挙げたり、肩を外側に広げる(外転動作)といった動作が痛みを引き起こすことが多いです。
- 重いものを持ち上げたり、腕を長時間上げて作業することは、痛みの悪化につながります。
7. 関節内の摩擦や音に伴う痛み
- 腱板が損傷していると、腕を動かしたときに「バリバリ」「ポキポキ」といった音がすることがあります。この時に肩内部で摩擦が起こり、痛みを感じることがあります。特に肩を回すような動きで、この痛みと音が顕著になることがあります。
8. 慢性的な痛み
- 腱板損傷が長期間放置されると、肩の痛みが慢性化することがあります。この場合、痛みが軽減することなく、持続的に肩の不快感や痛みが続きます。
- 特に、肩関節の動きが制限され、動かすたびに鈍い痛みや重い感じが持続します。
腱板損傷の分類
腱板損傷は、損傷の形態や損傷の範囲によっていくつかに分類されます。これにより、適切な治療法やリハビリ方法が決定されます。以下に、腱板損傷の主な分類を説明します。
1. 損傷の形態による分類
腱板損傷は、部分断裂と完全断裂の2つに大別されます。
a. 部分断裂
- 腱板の一部のみが損傷している状態です。腱が完全に切れておらず、部分的に損傷しているため、肩の機能はある程度維持されています。
- 浅い損傷(表面の損傷)や、腱板の一部に小さな亀裂が入るような損傷が含まれます。
- 症状としては、痛みは強いものの、肩の動きが完全に制限されることは少なく、早期の保存療法で改善することがあります。
b. 完全断裂
- 腱板が完全に断裂している状態です。腱が骨から完全に離れているか、腱自体が切れているため、肩の動きが大きく制限されます。
- 腕を上げたり回したりする動作が非常に困難になり、重度の痛みや筋力低下が生じることがあります。
- 多くの場合、手術が必要となります。
2. 損傷の範囲による分類
腱板損傷は、損傷が広がっている範囲や、断裂している部分の大きさで分類されます。損傷が大きくなるほど、症状が重くなりやすいです。
a. 小規模損傷
- 断裂の幅が1cm以下の小さな損傷です。この場合、比較的軽度の痛みや機能障害があり、保存療法で改善することが多いです。
b. 中規模損傷
- 断裂の幅が1~3cm程度の損傷です。痛みや肩の動きに制限が出ることが多く、保存療法とリハビリで治療することが一般的です。ただし、症状が重い場合には手術が検討されることもあります。
c. 大規模損傷
- 断裂の幅が3cm以上、あるいは腱板の複数の部分に損傷が及んでいる状態です。広範囲にわたる損傷は肩の機能に重大な影響を及ぼし、痛みも強い傾向があります。
- 手術による修復が必要となることが多く、リハビリ期間も長くなる可能性があります。
3. 損傷の発生機序による分類
腱板損傷は、どのように損傷が発生したかによって分類されることがあります。主に以下の2種類です。
a. 変性損傷(加齢や使いすぎによる損傷)
- 加齢や肩の使いすぎによって、腱板が徐々に劣化し、最終的に断裂するケースです。これは、中高年層に多く見られます。
- 長年の肩の酷使や、繰り返しの動作が腱板にダメージを与え、少しずつ損傷が広がっていきます。最初は部分断裂として始まり、進行すると完全断裂に至ることがあります。
b. 外傷性損傷
- 事故や転倒、肩に強い衝撃が加わった場合に発生する損傷です。比較的若い人でも、スポーツや交通事故で突然腱板が断裂することがあります。
- 転倒時に手をついたり、重い物を無理に持ち上げたりする際に、腱板に過度な力がかかって損傷することがあります。
4. 損傷部位による分類
腱板を構成する筋肉や腱のどの部分が損傷しているかによっても分類されます。腱板は4つの筋肉から構成されており、それぞれに損傷が起こり得ます。
a. 棘上筋(きょくじょうきん)の損傷
- 腱板損傷の中で最も一般的な部位です。棘上筋は肩を外転(横に挙げる動作)させる際に使われるため、この部分に損傷があると、腕を挙げる動作が特に困難になります。
b. 棘下筋(きょくかきん)の損傷
- 棘下筋は、腕を外旋(外側に回す動作)させる際に使われる筋肉です。ここが損傷すると、外旋動作や、力を入れて腕を動かす際に困難が生じます。
c. 肩甲下筋(けんこうかきん)の損傷
- 肩甲下筋は、腕を内旋(内側に回す動作)させる筋肉です。この部分が損傷すると、内旋動作や、物を押す動作が困難になります。
d. 小円筋(しょうえんきん)の損傷
- 小円筋は、棘下筋と同様に腕を外旋させる際に使われる筋肉で、肩の後ろ側に位置します。この部分が損傷すると、腕を外側に回す動きが制限されます。
まとめ
腱板損傷の再発を防ぐためには、日常的に肩のケアを行い、無理なく肩を使う習慣をつけることが重要です。適切なリハビリや運動を取り入れ、肩の機能を保ちながら、肩に負担をかけない生活を送るように心がけましょう。